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【イケメン戦国】月の兎は冬に焦がれる

第1章 享楽主義





「…無駄足でも、何かあっても、明日の営業トークの足しにはなるかなっ」


思い立ったが早いか、部屋着のまま、つっかけに足を突っ込む。
出がけにマンションのダストボックスへ、飲み干したビールの缶を投げてみると見事なシュートが決まった。
意気揚々とオートロックの自動ドアが空いた隙間を縫って、明るいエントランスから夜の闇へ、まずは初めの一歩。


曲がりなりにも観光都市の、街中ど真ん中に住んでいるはずなのに。
夜でも物好きな観光客が彷徨いている風情のある通りには、不思議な程誰もいない。
夜を独り占めしているような感覚に、嬉しくなって小走りで、あの光の場所へと――



「…あれは、」



この街に来てすぐ、そんなのもあるんだ、って気になって見物に来た。
スマホの中に写メも残ってる…歴史の教科書にもなかなか載っていない、隠れた観光スポット。


「本能寺跡の石碑…うーん、別に光ってないよね」



寺の跡だと言うのに、燃えてしまったから門跡すら残っていないその場所。
確か現存している本能寺は、後で再建されたものだったはず。
ここがあの有名な織田信長が最期を遂げた場所、だとしたら寂しいものだな、なんて思ったんだっけ…


そして光っていたのは、たしかこの辺りだったのに、と。
見失ってしまった光にきょろきょろと辺りを見渡し、これは明日ただの笑い話になっちゃうな、なんて覚悟を決めつつ。


何の気もなしに、石碑にひたり、と手を置いてみた――

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