第3章 耽美主義
「すかさず、交渉を入れてくるとは。
兎に成りたい等としおらしいのはただの振りか、」
謙信様は、苦笑混じりでからかうように問いかけてくる。
応えるのに、潤んだ声ではそぐわないだろう、と。
答えの前に、先程注いだばかりの一杯を飲み干す。
見合った謙信様は、常とは違う、酷く優しい目をしている。
自分でお気付きじゃないのだろうか?
これだから困る、これだから好きなのだ。
例え、同じものが返ってこなくても。
「えー、そんな狡い様に見えますかー?」
「…白々しい。お前はいつも抜け目なく動いているだろう」
信濃に行きたい、兎になりたいなんて。
ちょっとやそっとで叶えられない、いや、叶えようのないお願いを断った後には、小さな願いは聞き届けられやすいものだ…
謙信様との逢瀬なら城下でも最高、なんなら庭先でも烏滸がましいくらい。
目的は、十二分に達せれた。