第3章 耽美主義
「あ、さん」
幸村の隣に座っていた佐助くんが、先に私に気付き声をかけてくれると。
自分の立膝に突っ伏すようにして姿勢を保つのがやっとな様子の
幸村がゆるり、と頭を挙げた。
「よー、」
「よー、幸村、佐助くんも。
珍しく二人が呑んでるからお酌しに来たんだよ」
空いた二人の盃にお酒を注いであげる。
ありがとぉ、だの、気が利くじゃねぇかぁ、だの…とにかくいつもより呂律の回らないお礼が返ってきた。
そもそも幸村がおい、や、お前、以外の呼び方をするのはとても珍しい。
面白いもの見たさで、私も腰を落ち着け呑み始める。
「さて、どこまで話は進んだかな?
あの娘は息災か、という所までだったかな」
信玄様が私の隣にどかり、と腰を下ろした。
ふわり、と鼻をくすぐる香は甘く洗練されているけれど、いざ横を見てみると雫無く袂を緩めた酔っ払いが一人。
しかし彼も相当お酒に強いのだろう、目の端をじんわりと紅に染める程度の変化しかない。
じっと観察している目線に気付いたのか、ん?と甘やかな声でこちらに向かい首を傾げられる。
「いやー、イケメンだーと思いまして。眼福です」
「いけめん…前にも言ってくれたね。そろそろ俺に惚れてくれたかな」
「言葉が足りなかったようで。謙信様の次に、いけめんです」
「はは、これは手厳しいな」
笑って返す言葉も、なんとも大人の余裕に満ち溢れている。
色香にやられまい、と…ヘラっと笑って、幸村に視線を戻した。