第17章 利己主義
「喪う位なら、愛さないと決めていた…
過去の辛い記憶が、俺を頑なにしていたが」
とうとう頬をつたっていった涙を、長い指が掬ってくれる。
それが嬉しくて泣くのを止められない私を、謙信様はじっと見つめ。
「お前があまりにも無鉄砲に突っ込んできて…
かと思えば、あっさりと遠くへ退く。
見事に弄ばれたものだ、俺の完敗だ」
「…軍神様なのに、ですか?」
「お前にはもう、負けでいい。
俺も漸く諦めがついたらしい」
そんな殺し文句をかけられて、何処の誰が涙を我慢せずにいれるだろうか──
「謙信様ーっ!!
大好きですーーーっっ!!!!」
知っている、何度も聞いた…そんな風に謙信様に優しく返され。
感極まって、首元に抱きつく。
ホントは代わりなんて嫌なんです、と泣きつくのを…
まるで兎達にいつもそうするように、優しく頭の天辺を撫ぜながら聞いてくれるのだった。