第17章 利己主義
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「無様だな、鞠」
信長の呼び掛けに、鞠はゆるゆるとした動きで、空を見上げていた視線を下げた。
「信長様…
お陰であの世へ帰らずに済みました。
まさか、ワームホールを刀で斬っちゃうなんて…
思いもよらなかったけれど」
嵐の中で、鞠が信長の名を呼び続けられたのは、彼の事を信じきっていたからに他ならなかった。
果たして信長は風の渦を斬り裂き…謙信と共に、差し込む光を背負い現れた。
「目論見が失敗して、抜け殻か。
邪魔をしない方がよかったか」
信長はすっと人差し指を彼方の二人に向ける。
「今なら、謙信の刀は使い物にならんぞ」
試すような視線を向けられ、鞠は目を閉じ…
少しの後、小さく首を振った。
「そうか」
信長は笑みを崩さないまま、鞠の膝裏に手を入れ、抱き上げる。
何も言わないその表情は、あの女には適わないという諦観か…
それとも、生死を彷徨った故の達観か。
しかし、どちらでも良いことだとまた笑う──
「人間五十年、生きていれば妬み嫉みもある」
「…信長様もですか?」
「当然だ」
ぐすり、と音を立てて鼻を啜り上げ。
胸に頬を寄せる鞠に、信長が囁きかける。
「全てを愛してやろう、鞠。
お前が愛せないお前でも、俺が愛してやる。
ゆめゆめ、忘れるな」