第17章 利己主義
もう遅いかも知れないけれど、今更ながらその名を叫んでみる。
いつか、場内で宝探しをした時…
罠にかかって薄汚れた私を、薄ら笑いながら。
しかし、真剣な瞳で、謙信様が言ったのだ。
──困った時には他の誰でもなく…
佐助でも、信玄でも、幸村でもなく、俺の名を呼べ。
分かりました、なんて笑顔で答えた聞き分けの良い自分。
…だって、こんなことになるなんて思ってもみなかったんだもの。
風が、掴まっていた柱ごと私を吹きあげようと暴れる。
目の前は真っ黒い空気の渦で、目も開けていられない。
いよいよかと固く目を閉じてはみた、ものの…
営業は意地と執念、忍耐だぞ!
なんて、懐かしい主任の言葉が風に乗って渦巻く。
こんな時まで私を焚き付けてくれるなんて、全く有難いことですっ…!
「謙信様っ…!」
けれどこれで彼の名を呼びかけるのも、きっと、最後…
しがみついた柱ごとふわり、と身体が煽られ、浮き上がる感覚──