第17章 利己主義
渦巻く風が、垣内の塵芥を巻き上げていくのが見える。
確かにただのつむじ風なんかでは無いのだと分かる、何やら物々しい雰囲気。
雨が降る前のような、妙にじっとりとした空気に包まれながら。
鞠さんに背を押されるがままに、一歩ずつ歩く…
織田信長様の常宿だったと言うだけあって、本能寺は堅牢な造りをしていたようだ。
垣根は高く、所々鉄砲穴も空いている。
ぐるり、と取り囲んだお堀は2メートルもあるだろうか、結構深くて。
鬱蒼と茂った木々が周りを取り囲み、正面からしか中の様子は窺えないようになっている…
堀を渡る木造の橋の上に立つと、髪を撫でていく風。
木々から葉っぱを引っ剥がす程の勢いまで成長したそれは…
私まで飲み込もうとでも言うように、ざわめいている。
「ワームホールは、歴史を修正するために動くそうよ。
勝手に連れてきておいて、って思うけれど…私も随分追いかけられたの」
鞠さんの声を、肩越しに聞きながら…
目的達成の手前で、随分上機嫌らしい。
抵抗の術もなく、唇を噛み締める。
「ちゃんの好きな人…春日山城の誰かかしら?
見送った後は伝えておいてあげる、好きな人がいたみたいだって」
「…それはそれは、どうも」
「でも、あの人たち好戦的だから。
私を恨んで、此方に攻め入って来るかも…そしたら、信長様に倒してもらわないとね」
「…謙信様と信玄様は、簡単には負けませんよ?」
「さぁ、どうかしら。
彼等が衰退していくのは、私達よく知っているでしょう?
ワームホールが貴女を飲み込んだら、また一つ歴史は修正される。
…春日山の終わりに近付く事で、ね」