第17章 利己主義
その凄みのある表情に、うっ、と思わず気圧されそうになるのをなんとか堪えて。
また後で、と光秀さんに手を振り、鞠さんに駆け寄る。
「鞠さん、私も行く前にお参りさせて下さいっ」
「ええ、勿論。どうぞ」
鞠さんが場所を変わってくれる。
ご対面したお地蔵様は、私達が見ていたそれよりもお顔立ちハッキリ。
まだお社もピッカピカだ。
どうか、私の前途を拓けて下さい──
他力本願なのは、嫌だけれど…
相手がどう出るか分からないんだから、この際神様にも縋りたい。
目を閉じ、頭を下げる。
行きましょうか、と鞠さんに声をかけ、並んで歩き出す──
「心に怒りなき時は言葉和らかなり、
心に曇りなき時は心静かなり、
心に勇みある時は悔やむことなし…まさに、今みたいな事かな」
「…なあに、それ?」
「私の好きな人の、モットーらしいです」
ふーん、とだけ言った鞠さんは、興味も無い様子で前を向き直った。
もうその顔に、先程までのような笑顔はない…
やっぱり取り繕ってたのか、なんて、私が溜息を吐くのと。
隣で鞠さんが決意じみた溜息をついたのは、ほぼほぼ同時のことだった。
「ちゃん、此処に…本能寺に呼び出したのは、他でもない。
今日これから、未来に帰ってもらいたいの」
「…はあ?」