第17章 利己主義
あぁ、そう言えば…
ちゃんは若いから、体力があるから、なんて昔もよく言われたっけ。
わざわざ言葉にするという事は、心のどこかに一物あるのだろう──
「ねぇ、いいわよね?ちゃん」
鞠さんに、まるで成約前のクロージングトークのような、優しい声で問いかけられる。
営業とは、相手の欲求の達成…そしてそれ以上に、自身の利益を追求、獲得すること。
彼女の真意は何だろう、そして彼女が得たいものは何…?
「…」
しかし光秀さんからは、心から心配してくれているような声色で私の名を呼びかけられ。
うう、と揺らぐ、けれど…
光秀さんが私を振り返って見つめた、その向こうに。
鞠さんがぎらり、と目を細めたのを見つけてしまいぞくり、と背筋が冷える。
──そうだ。
何のために会いに来たって、じっくり腹を割って話すため。
あの日の誤解を解いて、万一また仲良くなれたりしたら最高だし。
無理なら無理でも、せめて蟠り無く分かれたい。
そうして胸に巣食った不安や憂いを取り払って、
曇りない状態でまた、謙信様に会いたい──
「…いいですよ、鞠さん。
本能寺まで暫くぶらぶら、お散歩しましょー!」
「…お前…離れていてはどうにもしてやれんぞ」
「ふふ、私なら…きっと、大丈夫ですよ」
少しでも光秀さんに安心して欲しくて、笑いかける…
またその背の向こうで、鞠さんがぎり、と歯を噛み締めたのが見えた。