第16章 弁論主義
「わぁ、この時代には蔵の屋根にお月様が付いてるのですね…!
まさに月鉾っ!」
「お前達の世では違うのか」
「それが、ビルの一階…
うーん、他の建物に無理やり片付けられちゃってる感じなのですよね」
その月鉾を横目に通り過ぎ。
次の細い辻を、南に下がる。
「次また、東に曲がるとね…
大事な時に御参りをしていた、お地蔵様がいらっしゃるんですよ」
「成程、必勝祈願というわけか」
「勝ち負けじゃないかも、だけど…まぁ、そういう事です」
そう言いながら、細い路地はすぐに次の角へ行き着いた。
左に折れると、そこにはよく見知ったお地蔵様がきっとあるはず。
あれは相当、年季が入ってそうだったもの──
そして曲がった先、目当てのお地蔵さんは、確かにそこにあった。
その前に、熱心に頭を垂れる女の人の姿。
京の街はとにかく人が多い…
まるで景色に埋もれてしまいそうな光景、なのに。
ざわざわと胸が波打つ。
光秀さんが、私を庇う様に腕を出し、一歩進む。
「…鞠さん、」
ゆっくりと顔を上げ、私の呼び声に応えてこちらを向いたのは。
やはり見間違いようもなく、鞠さんだった。