第16章 弁論主義
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「…ふん」
信長は、読んでいた書状を縦に裂いた。
そして思案するように、脇差に肘を置き、眼を閉じる…
眉間に寄せた皺が苦悶を感じさせ、相対している秀吉も胸が痛んだ。
「信長様、春日山からの書状…俄には、信じ難い話です。
鞠が、誰かを陥れようとするなど」
「貴様も見ていたのではなかったか?
鞠の錯乱した姿…今まで俺達が知っていた鞠とは、凡そ違うのだろう」
そう己に言い聞かせる様に口にすると、信長は閉じていた眼を開く。
既にいつも通り、自信に満ち溢れた笑顔で。
「馬を出せ。俺が直々に出向く」
「はっ…畏まりました」
「此処で幾ら考えあぐねようと、何もならん。
全ては、本能寺にあり」
いつもなら、この様な無茶は秀吉が止めるところだが。
鞠の事となると何を言っても無駄だと、この幾年かで悟っている。
何も言わず、先に天主を後にする秀吉の後姿を見送り…
信長は徐ら立ち上がると、パチン、と小気味よい音を立て扇を閉じるのだった。