第15章 行動主義
そこまで考えて、自分が唯一執着を抑えられない相手…
脳裏によぎった、あの女の笑み。
そして昨夜の、涙混じりの声を思い返し。
自然と、その名を呟いていた。
「…」
「謙信様も、そう思いますか」
自分としては、ほんの小さな呟きだった。
それを拾われ、思わず狼狽しかけるも。
佐助は既に別の方へ思考をやっている様で、こんな俺の様子には気付く素振りもない。
「ひとまず、急ぎ戻りましょう。
…さんの身が、危ないかもしれない」
「何故そう思う?
彼奴が、春日山に居る事を知る者は多くない。
まして城には、信玄も幸村もいるぞ」
俺が反論するも、佐助は憶測で物を言いたくないんです…などと生意気な事だけを言い、黙って歩き続ける。
その様子にまさか、と有らぬ考えが過ぎり。
すぐに、あってはならぬと頭を振る。
傷つけたくないから、失いたくないから遠ざけているのだ。
がどうにかなるなど、そんな事、あってはならない──
そこまで考えて、漸く。
珍しい迄の勢いに遅れを取らぬよう、佐助と並び丘を下るのだった。