第15章 行動主義
「それくらい、謙信殿にも自信を持って挑めれば良いな」
「全く、その通りですね。
…って、なんで分かりましたか!?」
「前にボヤいていた時と、状況はあまり変わっていないようだ。
昨晩訳ありげな様子で、謙信殿はお前を部屋まで運んでいたし」
──やっぱり、謙信様が運んでくれたんだ…!
今の自分の状況も忘れて、照れいる自分はやはり可笑しいのだろう。
赤くなった顔を誰にともなく隠すように、何の気もなしに少し、俯く…
「この首筋のえげつない鬱血痕も、彼の人だろう?」
俯いたせいで顕になった首筋を、するり、と光秀さんの指がなぞっていく。
ただ傷を辿るだけの、なんて事ない手つきだったのに。
ぞわり、と背が粟立って、昨晩の事がフラッシュバックする。
まるで自分が酷く汚いもののように思えて、咄嗟に手をやり、覆い隠す──
光秀さんはそんな私を見ても、喉を鳴らして小さく笑うだけ。
「痛々しいな」
「…そんな事、」
「わからんな。
そうまでされても、良いと言うのか?」
「そうなんですよ、困ったものですよね…我ながら」
「こうして他の男の腕の中で、よくも言えたものだ」
「んん、その言い方ちょっと語弊がありますけど…馬に二人乗りしてるだけ、ですよ!
…でもその点は、申し訳ないです」
素直なが無闇矢鱈と愛しいよ、なんて。
それ迄より一弾声を潜めて言うものだから、きっと聞かせるつもりは無かったのだろうと風に聞き流した事にする。
こんな光秀さんの事すら利用しているなら、鞠さんは許し難いな…と。
自分の事を棚に上げて、そんなことを考えるのだった。