第15章 行動主義
「鞠の行い、云々よりも。
謙信殿に黙って出てくる事は、もうしないと思っていた」
「だってー、行っていいか聞いたらきっとダメって言われますもん」
「一度、離れてしまえば…
二度と会えないかも知れないとは、思わなかったのか」
「…わぁ、鞠さんは、私を殺す気なんですかね?」
光秀さんは私の問いに、暫く何も言わない。
変に言い訳されるより余程分かりやすいな、なんて…
はぐらかされた答えの内容を考えて、溜息をつく。
「例えば、これから船にのる。
運悪く転覆するかも知れん」
「ま、何があるかなんて分かりませんもんねー。
その辺、すいませんが宜しくお願いしまーす」
「無事に、命あったとしても。
背信した者を謙信殿が、何度も受け入れるとは限らないだろう」
光秀さんの声音が、一層低く強くなった。
前を歩いていたのを振り返ってみると、まるで試すように挑戦的な、意地の悪い笑顔。
「…あるかもですねー、困るっ。
春日山の城門の前で、土下座でもしようかな?」
光秀さんは私の答えに、少し驚いたような表情を浮かべ。
しかし、すぐにいつもの意地悪な表情に戻り、また歩き始めた。
「お前が聡いのか、単に何も考えていないのか分からなくなるな」
「ふふ、光秀さんが買い被ってくれすぎな気もします」
「お前の方こそ、そうだろう。
俺が鞠の放った刺客ならどうする、全てが罠だとしたら?」
そんな意地悪な事を言う癖に、馬に乗ろうとする私の腰を支え、押し上げてくれる。
この温かい手が嘘なら、私も相当見る目が無いな、と思えてくる。