第13章 反証主義
「」
自分の鼓動が、ばくばくと煩く響く中でも。
よく響く、聞き逃しようのない声に目を開ける。
声の主…謙信様に、信玄様も気付いたのか私の腕を掴んでいた手を離した。
これ幸い、と謙信様の元に駆け寄る。
「はいっ、謙信様っ」
「明日から、暫く城を空ける。
荷詰めを手伝え」
「…はい、かしこまりましたっ」
先を立って歩き出す謙信様の背を見届け、三歩後ろを私も歩き出す。
…何があったか、なんて、私が聞きたい。
まるであの夜も、その前にも、何も無かったかのように振る舞うこの人の気持ち…
昂った感情をただぶつけられたのだろう、それでスッキリされたんだ、と自分に言い聞かせる。
どんどん、付けられた痕は薄れていく。
比例してこの気持ちも薄れていったら楽な物を、そうはいかないから辛い──
それでも、一緒にいると決めたのは他ならない自分自身。
謙信様は、暫く城を留守にされると言う。
離れれば、この気持ちも少しは整理できるだろうか。
適正な距離と心を保って、ずっと一緒にいれるだろうか──
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「あの感じが、おかしいんだよな」
「…あそこまで何ともないと言われると、俺達にはどうしようも無い」
「奥ゆかしく、一歩下がって謙信を立てる…それが目標になってしまったようだ」
「そんなの、じゃねーだろ!?」
「…だね、その通りだ」