第12章 合理主義
私の上げた声を無視したままで。
しゅるしゅると、背後で帯を解かれていく音がする。
予想通りの展開に、息を呑む…口を開けば、悲鳴や拒否の言葉が漏れるのが怖い。
謙信様をこれ以上、哀しませたくはない──
複雑に美しく撒かれた帯は、いとも簡単に解されると、だらりとお腹の下に散らばったまま。
開けた項をそっと撫でると、謙信様は徐ろに、後ろ背に噛み付いた。
「いっ…!!!」
それには流石に、噛み締めていた口から息が漏れる。
いたい、と言いかけて、寸での所でなんとか呑み込んだ。
痛いんじゃないですよ、好い、なんですよ…なんて思っても無いけれど、勘違いしてくれないだろうか。
そしてするすると唇が滑っていく感覚と、背骨の横をカリッと一噛みされた、鋭い痛み。
未だに信用して貰えて居ないのか、身体中に力がかけられたまま。
自由にならない腕がもどかしくて、切なくて泣けてくる。
でも、ここで泣いたら、謙信様は私が嫌がっていると思うよね…
ぎり、と奥歯を噛み締め。
滲んだ涙を、顔を押し付けた枕で拭う。
項を引き下げるだけでは足りなかったようで、裾が大胆に捲り上げられる。
かなりカッコ悪い事になってるだろうな、と冷静な私が思うけれど、柔らかな脇腹に噛みつかれてそんな思考も霧散した。
美しい着物はきっと見るも無惨にヨレて、ぐちゃぐちゃになっている──まるで私の、心持ちのように。