第12章 合理主義
「…あ、の、これって、」
中は廊下より更に薄暗く。
行燈が一つ、置かれているだけ。
と、いうより何も無い、だだっ広い部屋には大きな布団が一枚だけ敷かれていて──
やばい、と頭の中で警報が鳴るよりも速く。
謙信様が私の身体をふわり、と優しく持ち上げる。
そんな事にすら、痛いほど跳ねる心臓…
そしてその優しさが嘘だったかのように。
私の身はぺしゃり、と、無慈悲にもうつ伏せで布団に落とされる。
「いっ…!ぐえっ」
更に上から容赦なく体重をかけられ。
潰された胸と、その下敷きになった両腕が苦しくて、じたばたと藻掻く。
頭もほんの少ししか動かせなくて、謙信様の姿すら伺えない。
「けんしんさま、」
恐怖に駆られて、名前を呼ぶ声が震える。
いつもなら…ぶっきらぼうながら、優しさを含んだ声が返ってくるのに、やはり今日はそれも無い。
「けんしんさまっ…!!」
悲鳴めいた声はただ、闇を震わせるだけ。