第11章 現実主義
そこが丁度良いタイミングだったのか、謙信様がぴたり、と足を止め。
振り返り、私と真っ直ぐ目を合わせ。
冷たさの中に、ぞっとする程の熱を孕んだ視線を向ける。
そして、今までずっと無視していた私の言葉に返事を返す…
「佐助なら、城奥の懲罰房だ」
思いがけないその答えに凍りついた私の手を、ぐい、とまた強く引き。
脇目も振らず、迷いもなく、立ち止まった先の建物へと入っていく。
「あのっ、懲罰って…!どうしてですか!?」
「俺の物を許可なく連れ出し、あまつさえ危険な目に合わせたとあれば当然だろう」
俺のモノ、って…そこで私は言葉に詰まる。
昼間なのにどこか薄暗い、中には店主だろうか、お爺さんが一人座っていた。
物音ひとつ無いそこでは、声を出すのもはばかられて立ちすくむ。
謙信様はお爺さんが座る前のカウンターに、袂から出した小さな巾着袋をドン、と置いた。
微かな金属音に、お金だ、と察する──しかも割と、大量の。