第11章 現実主義
「もう会う事も無かろう。
息災でいろ、」
「…はいっ…お世話に、なりました」
光秀さんの手が離れていき、頭を上げる。
すると間髪入れず、謙信様に強く手を引かれ。
思わず痛みに顔を顰めるも、なんとかその急な動きに従い立ち上がる。
「世話をかけた」
そのままぐいぐいと私の手を引く、後ろに付き従い歩く。
光秀さんの事を振り返る、そんな余裕もないほどの速さ…
何も言わない、此方を見もしない彼の表情は伺えない。
早くも御殿を出て、城下町へと…縺れる足を必死に捌いて、ついて歩くだけで精一杯だ。
謙信様の纏う空気は相変わらず冷たいままで、なんとかそれを変えたくて、話しかける。
「あの、謙信様が来てくださるとは思ってもみませんでした。
有難うございますっ」
それでも彼は、何も言わない。
歩みを止めることもしないまま、ただひたすら歩く…
「いやーまさか、こんな事になるとは思っていなくて…本当に申し訳ありません」
「でも、光秀さんはとても良くして下さったんですよ。
あとね、徳川家康様が傷を見てくれて、」
他の人の名前を出すと、あからさまに。
手を握る力が強くなり、地雷だったかと気付くももう遅い。
じりじりと焦りか恐怖か、鼓動がばくばくと大きく速くなっていく──
「あの、謙信様、佐助くんは…?」