第11章 現実主義
それまでポンポンと調子よく質問に答えていたのに。
急に答えに困って黙り込む私を、光秀さんはちらり、と見てまた視線を逸らした。
──そういえば、ここに来てから一度も戻りたいと思ったことは無い。
残してきた仕事、心配してくれているかもしれない家族に友達。
家賃なんかも滞っているだろうし…
そんな事を全て思考の彼方に追いやってしまうほど、これまでの日々は、彼との暮らしは鮮烈的だったんだ、と改めて思い知らされる──
「あはは、戻りたいと言えば…
越後に、戻りたい方が強いかもです」
誤魔化すように軽く笑う私の、心根を読もうとでも言うように。
光秀さんがまた鋭い目をこちらに向けた。
にこり、と笑い返すと、光秀さんも諦めたように小さく笑う。
「本当に食えない女のようだ」
「わぁ、それって褒め言葉ですかね?」
「まさか。
…迎えなら、もうじきに来るだろう」