第11章 現実主義
「お前は、余程謙信殿の事が気に入りらしい。
昨日、生きるか死ぬかの瀬戸際で顔色一つ変えなかった癖に…
今はころころと、まるで百面相のように表情が変わる」
「ふふ、そうなんですよー!
私ってば謙信様のことが大好きで…でも、」
「どうした?」
聞き上手な光秀さんに、上手いこと転がされ。
促されるがままに、ここに来る前にあった出来事を掻い摘んで話す。
「…と、言うわけなんです。
謙信様ってば、てっきり私の事が好きだと思ったのにー!」
冗談めかしてそんな風に話を締めくくった私に、光秀さんは何処か寂しげな笑顔を向けた。
「微笑ましいやり取りは、羨ましい程だ」
「…え?」
「俺は、恋だの愛だのに惚ける資格のない男だからな」
「…そんなの、資格、なんていりますか?」
私だって、主任のせいで男性不信に陥っていたけれど。
謙信様に出会ってしまった瞬間、そんな枷はどこかに消え失せてしまった…
きっと、恋だの愛だのは止めようたって止められない。
転がるように落ちていくものなのだと、身に染みて知っている──
そんな事をぽつぽつと語っている間に、目の前のお膳には朝から豪華な食事が並んだ。
女中さんにお待たせしました、と声をかけられて我に返る。