第11章 現実主義
「…へえ…!初めて聞きました」
「お前は折につけ、良いものを与えられているのだろう」
そうなんだ──
そう、だよね。
大事にしてもらっている、と感じた事は少なくない。
何処の馬の骨とも知れない、突然現れた私に何不自由ない暮らしをさせてくれて。
あまつさえ、対等に扱ってくれるのだから…
春日山での日々がふわり、と過ぎる。
口元がゆるゆると震え出すのを袂で覆う…
すると、先程湯上りに女中さん達が塗ってくれた香油がふわり、と肌から匂い立った。
「あ、の。
さっき、お風呂上がりに香油を塗ってもらったんです。
良い香りですね」
「ああ、御館様…信長様に頂戴したものだ。
南蛮渡来の香油だと聞いている」
話している間にも、揺れる袂の隙間から、甘い花の匂いがほのかに零れる。
南蛮渡来と聞けばなるほど、と頷ける、どこかエキゾチックな温かみのある香り。
謙信様とまた手を繋いで歩く機会があれば、良い香りだと褒めてもらえるだろうか?
そんな楽しい気持ちにとらわれて、それだけで緊張がふわふわと解け。
先程までとは真逆の意味で、口元が緩む。