第11章 現実主義
ピッカピカに磨きあげられた廊下を、光秀さんのあとを着いておっかなびっくり進む。
しっかりと丸みを帯びた形に選定された、青々とした松の木が朝の光を照り返す。
「あの、ありがとうございます。
丁度、お風呂に入りたいと思っていた所で」
「無理もない。
三日も寝込んでいたのだから」
…三日。
みっか!!!?
驚いて声も出ない私を見て、また光秀さんはふわり、と悪戯げに口元を緩めた。
「それから一晩また寝たから、安土に忍び込んでから四日は経つという訳だな。
風呂に入りたくなるのも無理はない」
「…そ、そーですねっ…!」
デリカシーがあるのか無いのか。
笑みを湛えたままの顔をちらり、と睨むと、光秀さんは優しく私の腰を引き、方向を変えさせる。
「此処が湯殿だ」
「あっ…ありがとうございます!!」
距離が近い!
昨日のやり取りもある、それに…
におったらどうしてくれるんだ!
やきもきする私を他所に、光秀さんは木戸を引き。
そしてとん、と優しく手を添えていた私の腰元を押した。
「綺麗に仕上げて来るといい」
押されたままに、一歩足を踏み出す。
檜の白木が良い香りを放つ、脱衣場らしきその小部屋には…
待ち構えるように、女中さんが三人。
そ、そうだった…!!
この時代では至れり尽くせりなんだった…!!!
あわあわと視線を泳がす私の後ろで、無慈悲にも。
扉を閉める、木の良い音が響いたのだった。