第2章 主情主義
私に何かがあった事、を知っていて前提にある問いかけに、まずはその彼を観察する。
驚く程に、無表情ではあるけれど…
ずれ落ちた眼鏡のフレームをゆっくりと直す仕草に、余裕が漂う。
落ち着いた、深みのある声のトーンからは、悪意よりも、善意だけを受け取れる。
視線は真っ直ぐとこちらを向いているのに、瞳は微かに揺れている…きっと本当に心配してくれているのだろう、と思わせられる面持ちに、彼は敵ではないのだろうと判断した。
ここが何処で、何故ここに私はいるのか。
情報を引き出すためにはまず、こちらの情報を開示するのが妥当――
「えっと、まずは…身なりを綺麗にしてくれて、ここに寝かしてくれたんだよね?
有難うございます。
私は、と言います」
「さん。
俺は、猿飛佐助と言います…あ。
…着替えさせたのは勿論女中だから、心配しないで」
あ、という言葉のあと、本当にほんの少しだけ、頬を染めた佐助くんに。
やっぱり悪い人じゃないらしい、と私は安堵の笑みを浮かべた。
そして彼に、「ここに来る前のこと」を説明する。
彼は余程興味深いのだろう、先程までより目を見開き、高揚した様子で私の話を黙って聞き…終わった今は、腕組みをして考え込むような表情を見せている。
「俺の時とは随分違う…ワームホールとはまた違う事象か」
彼の、よく分からない独り言だけが聞こえる静かな部屋に、遠くから鹿威しの落ちる音。
余程広い庭があるらしい、と窓の外を想像しながら、随分余裕の出てきた私はよっこらせ、と立ち上がり。
凝り固まった身体を解したくて、組んだ両腕を思い切り上へと伸ばした――