第10章 【閑話休題】鞠の心【頂き物】
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「ゆるさない……ゆるさなぃ……」
あれから三日経つが、床の継ぎ目に爪を立て、ガリガリ引っ掻いている鞠をじっと見ていた信長は、すっと襖を閉めた。
『___あの女をここから追い出して、二度と顔も見たくない、声も聞きたくない、なんなら殺して、私の大事なものをまた奪おうと追いかけてきたのよ!』
「…………あの得体の知れぬ女、何か吐いたか」
信長は報告に訪れた光秀が口を開く前から催促をするように。しかし脇息にもたれ大きなため息をついた。
「織田に対する他意は無いようです。 鞠には偶然会った、と。」
「偶然、にしても様子がおかしい。鞠があのように心を乱すとは。 あの女と鞠には何かある」
「何があったかは話しませんでしたが、この時代で楽しく過ごしていてよかった、と申しておりました」
「この時代で、か。 鞠は己の時代で楽しく過ごしていなかったということか」
「おそらくは。 鞠はを見て心を乱し、は鞠を見て安堵し涙していた……二人の間に何かがあった、ということでしょう」
「そうか……ご苦労だった」
「あの女を放免してよろしいので?」
「これ以上、鞠の胸中を詮索する必要もないだろう。 人に言えぬことの一つや二つ、誰しもあること」