第10章 【閑話休題】鞠の心【頂き物】
それでも耐えた。かろうじて成績は私が上だったからまだ耐えられたのかも知れない。
けれど、その差もじりじりと袋小路に追い詰められるように迫ってきて。切羽詰ってどうにもならなくなって主任の共感とか肯定の言葉を聞きたくて相談すると、彼は
「そんなんじゃに追い越されちまうぞ」
って……一番気にしてる名前を出して
指一本触れてくれなかった。
その眼差しは私を見ていたけど、彼の瞳に映りこむのは、ただの黒い影だった。
明日は月報をまとめて提出をする日。すなわち、今月の成績が決まる、運命の日。
まだ間に合う、お困りのお客様がいらっしゃるかも……とにもかくにもお客様と連絡を取らなきゃ!
運命の刻限までもう少し。
あたふた焦って受話器を握りしめる私を尻目に、聞こえてきた言葉は。
「、飲みにいくぞ。 今日はどの店が良い?」
えっ……
今日は?
どの店……
「鞠さんと一緒じゃないと嫌です」
「こういうときは素直に甘えとけー」
否定しないんだ、お店選ぶくらい回を重ねてるんだね……
『あぁ、うちは間に合ってるよ。 いつも気にしてもらって悪いね_____』
受話器の向こうで明るく断る声が聞こえ。
こちらも明るい声で、また何かありましたら___と、音を立てないように受話器を置く。
一緒じゃないと嫌って何……
ねぇ、私に気を使うの、やめてくれる
同情?
哀れみ?
不憫に思ってお情けかけてくれるの?
あんたに気を使われるほど……
わたしは、落ちぶれちゃいない。
数字だけで決まるなんて、許せない。
私の知らないところで彼と会ってるなんて、許せない。
これだけ努力してきたのに、いとも簡単に私のすべてを奪っていくなんて、許せない。
学校卒業したばっかりの、あんな小娘に……!
今まで張ってきた虚勢、自分を構築していた砦、がすべてが覆滅して。
ブラインドを落とした誰もいない店内で
声を上げ
机を叩いて
馬鹿みたいに泣いた。
「許さない、ゆるさない、ぜったいに、…………許さないんだからー!」