第10章 【閑話休題】鞠の心【頂き物】
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「夕餉の支度が整ったぞ」
声が聞こえ、めり、と爪がめくれて我に返る。
床の継ぎ目を削っていた爪はガタガタに削られ、床に押し付ける圧に耐え切れずめくれてしまったのだ。
顔を上げると格子戸の向こうは茜色に染まり、声の主は私を見下ろしてすっと膝を折り。
「腹が満たされれば、気持ちも落ち着くだろう」
表情もなく話す。
「信長様……」
みんなのいるところであんなに騒いで、
一人にしてって、啖呵切って叩いたのに。
すると、重い刀を持ち、数え切れないくらい人を殺めたその指先で、怖いくらいに優しい手つきで頭を撫でて。
「なぜ雨が降るのか、なぜ天道が陽を届けるのか、誰にもわからぬのと同じこと。 心は思うままでいい」
そう言って笑う。
「ごめ……なさぃ」
「言ったはずだ、すべて愛される覚悟をしろと」
ぶわっと溢れる涙を大きな胸に押し付け、声を上げ、叩き、馬鹿みたいに泣くのを、信長様は何も言わずに抱いていてくれた。
おしまいける。
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special thx 小次郎様♡