第9章 批判主義
「…先程、脅かされた時には泣きも騒ぎもしなかったのが幻のようだな」
光秀さんの、白く形の良い手がこちらに伸ばされ。
袂ですっと涙の筋をなぞられた。
突然の優しい手つきに驚いて、避けることも出来ずに固まる私の頬に手を添えたまま。
また揶揄するように、光秀さんは笑いかける。
「あ、あの、」
「あの娘に対する感情は、弱々しい小動物にかけるような庇護の精神であったり…
未来から来たという摩訶不思議な物への興味であると、己を分析していたが」
そして瞳が、弓張月の様に細まり、弧を描く。
妖しい魅力を湛えた表情に魅入られた様に、その手をふり解けない。