第9章 批判主義
家康さんは黙り込み、笑った光秀さんを小さく睨んでいる。
どう見ても家康さんの方が年下だけど、随分不遜な態度。
…それを窘めずに、揶揄するように薄い笑みを崩さない光秀さんも、随分良い性格をしているらしい。
しかしそんな攻防も埒が明かなくなったようで、家康さんは今度はこちらに冷たい目線を移す。
私がぺこり、と頭を下げ会釈すると、はあ、と今日一番のため息をついて目を逸らした。
「変な女。
…光秀さん、俺はもう行きますよ」
「無理を言ってすまなかったな。
例の約束、頼んだぞ」
「分かってますよ。
此度の事は鞠には言わない、ちゃんと承知してます。
それじゃ」
鞠さんの名前が出た瞬間、びくり、と身体が震えるのを止められず。
家康さんを見送りつつも、それを見逃さなかったらしい光秀さんは、低いけれどよく響く声でどうした、と尋ねた。
「いえ、何も」
「何も、という顔では無いな。
…では、我が軍の典医のお墨付きも出たことだ。
尋問と行こう」