第9章 批判主義
誰か来るのは分かっていた事らしい、光秀さんは淡々と声の主を招き入れる。
襖を開け入ってきたのは、ぶすっとした表情が印象的な、しかしこれまた弩級のイケメンだった。
「起きたんですね」
「つい先程な。家康、診てやってくれるか」
「…貸しは大きいですよ。
あんた、腕出して」
家康、って言うとあの…!
妙な感慨に打ち震えながら、言われたとおりに腕を捲る。
家康さんはいかにも面倒そうに、大きく息をつくと…
その冷たい印象とは正反対の優しい手つきで私の腕を取り、脈をみている。
顔色や瞳を確かめるようにしげしげと見つめられ、思わずにへら、と頬が緩むのを止められない。
「…特に異常無さそうですね。
むしろ、落ち着きすぎなくらい」
「そうかも知れん。つい先程も、図太い神経をしていると話していた所だ」
「ふーん…あんた、怖くないの。今の状況」
「え?怖い、と言いますと…?」
「こうして将に囲まれてさ…抵抗出来ないまま、討たれてもおかしくないでしょ」
もう随分前のように感じられるけれど、初めて謙信様と会った時も同じようなやり取りをしたな、と。
妙に懐かしい気分になって、ふふ、と笑いが零れてしまう。
そんな事を知る由もない、光秀さんと家康さんが怪訝そうに見ている。
この答えなら、予習済みだ──
「だって、殺そうと思えば、私が寝てる間でも出来たじゃないですか?
そんな気が無いから、体調を見て下さったんですよね。
家康さん、ありがとうございます!」
「なっ…」
「くく、家康。一本取られたようだな」