第8章 懐古主義
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「さん!
最年少での主任昇格、おめでとうございます!」
「わーい、ありがとー!
主任…いえ、上田係長のご指導の賜物ですー」
二年目の春。
昇格人事で、私は主任になった。
主任は押し出し昇格で係長。
さらには、新店への栄転が決まっていた。
私たち二人プラス、途中入社してきた部下と三人でささやかな昇格祝いに興じる。
「サンキュ、!
しかし、心配だよ…新店にはお前のような、出来る部下はいないだろうからな」
新生活への不安からか、主任…いや、係長はちびちびと舐めるように酒を飲み、小さく笑う。
いつもの威勢の良さはどこに行ったのか。
通勤時間も伸びるし、明日の朝も早いから賢明な判断だろうけれど。
「私達も心配ですね、さん…
係長がいなくなられても、やっていけるでしょうか」
「だーいじょうぶだよ、そんな心配しなくても」
少なくとも私達はね、と。
心の中で付け足す。
係長は相変わらず顔色が悪い。
恐らく自分でも感じているのだ…
力不足の人事だと。
私の評価加点が、己の実力以上の評価を生んでいるのだ、と。
「大丈夫ですよ、係長。
だって…己の立場を自覚して、身の程をわきまえなきゃ、でしょう?」
この一年、従順な部下を演じてきた。
満面の笑顔で繰り出した私のイヤミは、ありがとうな、なんてむず痒い言葉で返される。
他意無く素直に微笑んだ彼は、やっぱり最後までイケメンだった。