第8章 懐古主義
「おーい、」
「あ、主任。お疲れ様です」
後ろから駆け寄ってきた主任は、やっと追いついた、と白い歯を見せて笑った。
はいはい、今日もイケメンです。
…思えば、主任と二人きりなんてそうそうないシチュエーションだ。
どうしてか鞠さんへの罪悪感が込み上げる…何もしていないのに。
「主任、帰るんですね」
「あ?そうだな、特に残務も無いしな」
「でも、鞠さんが残ってるのに…
何だか追い詰められてるみたいだし、心配です」
「お前、ほんっとに鞠のこと好きだなー」
「そりゃそうです!沢山お世話になってますもん」
でも、私じゃ鞠さんの力になれない。
こんな時こそ、主任が支えてあげたらいいのに。
一緒に残ってあげて、アドバイスの1つや2つあげたらいいのに。
でもそんな事を私が言うのは差し出がましいのだろう、とぐっと飲み込む。
「ところでさ、ほんとに飲みに行かねぇのかよ?
俺、今日空いてんだけど」
「だからー、鞠さんが居ないならいいですっ。
あ、私、こっちなので」
能天気な主任の言葉にイラッとしながら、さっさと踵を返す。
鞠さんはきっと、主任に会いたいに決まってるのになぁ──