第8章 懐古主義
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「鞠さんっ、お疲れ様です!今日飲みに行きませんか?」
「ちゃん…お疲れ様。
ちょっと残って仕事がしたくて」
「えっ…?昨日も残ってませんでしたか?」
「うん、顧客様へのメールが終わってなくて」
「鞠は今月成績ヤバいからなぁ…残業して当然。
まずは、既存客の洗い出しが基本だぞ、頑張れよ!
どうだ、俺と行くか?」
「えー、鞠さんが居ないならいいですー」
鞠さんは私達の会話を聞いているのかいないのか、鬼気迫る表情でディスプレイに向かっている。
もう目標は達成しているのに…
私はと言えば今月、コツコツと追いかけていた成果が出てきたのか、入れ食い状態で成約を上げていた。
主任も成績好調らしい。
トントンとは言え、結果的に店舗内で最下位なのは鞠さんだった。
プライドとか、重圧とか…
そういう私には理解し得ない物があるのだろう、と。
その背に小さく、お疲れ様です、ともう一度声をかけ退勤する。