【DC】別れても好きな人【降谷(安室)※長編裏夢】
第85章 I kiss you
「自宅まで、送らなくて良いので。適当に降ろしてください」
「何故です?」
車に乗り込んだのは、会話をするため。
携帯を返してもらうため。
もとより送ってもらう気はなかった。
「なぜって……透さんに見つかったら困るでしょう」
「でも彼、今夜は遅いのでしょう?」
「……メッセージ見たんですか」
「たまたまです」
たまたまパスワードが解除されたら堪りませんね。
「あ、すみません。あなたの忘れ物ですが、どうやら忘れてしまったようです」
「……はい?」
「ひとまず戻りますね」
確信犯。
私が睨んでも効果があるわけもなく。
……窓の外へと視線を向けた私は、どこか諦めに似た感情が浮かんだ。
工藤邸に戻り、車から降りた私に「車でお待ちにならないんですね」と意地悪く言われてはカバンを投げつけたくなった。……しませんけど。
お邪魔します、と先ほどぶりのリビングを見渡し、携帯を探した。
「携帯受け取ったら、歩いて帰るので」
「良いお酒入ってますよ」
話を聞いていない。
しかも、私の携帯を持ちながら話を被せてくる。
「……携帯、返してください」
「ああ、失礼。…どうぞ」
沖矢さんの手のひらに置かれた状態で向けられる携帯。
それを受け取ろうとすれば、手首を捕まれ、勢いよく引っ張られた。
「~っ、沖矢さん!!」
抱きしめられた。
それも、力強く。
腕の中で暴れる私の抵抗なんて、気にもしないで。
「○○」
酷く、寂しい声だった。
抵抗を一瞬でやめてしまうほどに。
「……赤井、さん?」
いや、今は沖矢さん、なんだけど。
…今はそう呼んではいけない気がした。
意地悪じゃない。
これは、知ってる。
零からも向けられた、……零だけを優先しないといけないのに。
「心配かけて、ごめんなさい」
腰に回され、固定された右手と。後頭部を押さえていた左手が、頬に添えられた。
親指で、唇をなぞる。
唇の間に指を浅く沈ませ、指先が浮かされ、触れる。
「赤井さん」
沈黙が、耐えられない。
向けられる視線を合わせることも、できない。
体が緊張で強張って、それなのにこの人の熱に安心する。
緊張するのに、安心する。
「I kiss you」
一瞬も抵抗する隙もなく唇が重なって、舌が奪われた。
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