【DC】別れても好きな人【降谷(安室)※長編裏夢】
第85章 I kiss you
工藤邸の掃除は外が暗くなる前に切り上げた。
コナンくんと蘭さんを探偵事務所まで送って、園子さんを自宅まで送って。零に連絡を入れようと、携帯を取り出そうをしたところで、カバンの中にないことに気が付いた。
工藤邸を出る直前、忘れ物はないかしっかりと確認したはずだったのに。
心当たりは、二人。
場所ではなく人物なあたり、なんかこう、頭を抱えたくなる。
「……透さんの帰りが遅くて良かった」
突然距離を置こうとした私にも非があるし、警戒を怠ったのもその通りだ。
それでも、探偵事務所に通っている私相手に、コナンくんならこれまで何度もチャンスがあったはずで。
そうなると、心当たりは一人になる。
「二人きりに、なりたくないんだけどなぁ」
渋る気持ち。
見られて困る情報はあっただろうか。
……零に見られて困るやりとりは残らないように気にかけていたが、赤井さんには何から何まで話していた。
そう。
あの、東都水族館での一件までは。
困ってはいるが、嫌ではない。
それもきっとあの人には見透かされているのだろう。
向けられる好意も、私の信頼を得るためだと言われても……納得してしまう。
零の恋人であることが。
安室透の恋人であることが。
バーボンの恋人であることが。
きっと、彼らにとって私は都合の良い情報源。
自覚は、している。
私も彼らを利用させてもらっている。
向かう足の方向を来た道へと戻し、ゆっくりと歩く。
行きたくないなあ、なんて、子どものように呟いている矢先。
プップッ、と短いクラクションの音を鳴らす車が、行き先を塞ぐように停まった。
「……沖矢さん」
「乗ってください。送りますよ」
忘れ物もあるでしょう、と付け加えられた言葉。
「ありがとうございます」
皮肉たっぷりの感謝の言葉を言いながら車に乗り込めば、くしゃ、と頭をなでられた。
……ああ、うん。
それだけで、顔が熱くなるのは、気のせいにしてもらいたい。
この人は、……甘い。
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