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【DC】別れても好きな人【降谷(安室)※長編裏夢】

第85章 I kiss you


「お久しぶりです」

 工藤家にたどり着くまで、幾度となく重ねられた誘導尋問に無言を貫き通すことで逃げてひと息ついたところで現れたのは沖矢昴……の姿をしている赤井さんだった。
どうぞ、と招かれる玄関に「ありがとうございます」と返した声はこれ以上にないほど小さくなっていた。
 コナンくんが私たちをちらと横目に見てはすぐにリビングへと向かってしまった。……置いてかないでよぉ、なんて嘆く気持ちは赤井さんには見抜かれるわけで。くくっ、と肩を揺らす目の前の人を睨んだ私を、楽し気に見下ろされる。
 言ってないことが、たくさんあって。
 言えないことが、たくさんあって。
 頼らないと決めただから。

「これ、ありがとうございました」

 迷わないうちに、カバンの中から通信機を取り出し、押し付けるように沖矢さんに渡せば、受け取られる。……と、手を重ねられた。視線をそらさず、指先で手の甲をなぞられたら、背筋にぞくりと何かが走ってしまう。それを見逃してくれるはずもなく、近づいてくる顔に、──静かに重なる唇。
 ……ああ、もう……

「いつでも頼ってくれて構わない」

 変声機をオフにしたその声。
 それだけで、大きく揺らいでしまう己の覚悟が弱くて堪らない気持ちになる。
 沖矢さんの胸板を軽く押せば、素直に離れてくれる距離に視線が俯いてしまって。

「……大丈夫です。私には、頼れる人がいるので」
「そうですか」

 沖矢さんの声で返されて、俯いた顔をあげることができない。
 話したい。聞いてほしい。頼りたい。
 この人は、それを受け入れてしまうのだろう。
 
「それと、こういうこと。二度としないでくださいね」

 だから、私はこの人を頼らないようにしないといけない。
 頼ってはいけない。
 零が嫌がることは、したくないから。

「〝こういう〟とは?」

 顔を近づけてきて口元が緩んでいるのがわかる。
 揶揄われていることは理解しているのに、頬に触れる手が優しくて動けなくなる。

「話したくなったら、いつでも来てくれ」

 ……唇にふわりと羽でも触れたのかと重いほど、軽い口づけ。

「だっ、から、こういうことですよ!!」

 

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