第74章 療養期間

「ご機嫌だな」

迎えに来た零と一緒に仕事を終えて。お先に、と言って帰る姿はとても珍しい。

「仕事好きだなって思って。早く体動かしたい」
「…暫くの我慢だ。医者から問題ないって言われたら、現場にも出てもらうし僕とも行動してもらう」

お前は見張ってないと何やらかすかわからないからな、と付け加えられて。

「それ余計じゃないですか」
「東都水族館」
「…あー…今日の晩御飯、何にしよっか？」
「身に覚えがあるんだろ」

話をわざとらしく反らした私に零がため息をつく。
…申し訳ないし話さないとな、とも思ってる。
でも何をどこまでどういう風に話すのかわからなくて。

「………ごめんね」
「お前はお前の考えがあるんだろう、それが俺と噛み合わない」
「それは、…そうだけど」
「俺も譲れない、○○も譲れない」

その通りだけど。
じゃあどうしたいんだって言われると困るのだけど。

「私が好きなのは零だから！」

突き詰めて伝えたいことも、話したいことも…全部、それなんだけど。
思わず大きな声を出して迫るように言った私に、目を見開いて…数秒止まった後、笑われて。

「知ってる」

くしゃ、と頭を撫でられて…大好きな表情だった。

「ただし他の男に抱かれるお前も、FBIを頼るお前も、俺は好きじゃないからな」
「…わかってます」
「それから」
「まだありますか」
「公安として動くときは、僕に従え」
「…善処します」
「絶対だ」

零は何も間違ってない。それが正しくて。

「俺も不安にさせるようなことは言わない」

私の頬を撫でて、優しく唇が重なった。

「仕事とプライベートは…切り替えられるだろ？」
「…零以外の事なら」
「だめだろ」
「私のすべてが零だから…仕方ないじゃない」
「開き直るな」
「私にはまだ難しい…わかってる。あの時だって思い浮かんだのは…みんなの顔だった。零もそうなってしまうかもしれない、それが何よりも怖かった。だから時間をください。その分ずっと一緒にいてください」

一緒にいる時間で必ず解決できるから。
零の顔が近づいて、唇が重なった。

「弱いな、お前は。その弱さに救われる」
「…強くなりたい。強くありたい…零みたいに」

両手が重なって指が絡まって優しく私に笑う。
弱いことを否定しないこの人が好きで…だから、前に進むことを諦めずにいられる。



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