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【DC】別れても好きな人【降谷(安室)※長編裏夢】

第55章 都合の良い存在※裏


待って。
声が、違っていて。
いつも目を細めている人の目が…獲物を狙うような目で…動けなくなる。
それと同時に、シートが倒されていた。
覆い被さる男の人が、手首を捕まえて抵抗できなくて…唇が重なろうとして、顔を反らす。

「やだ…っ…沖矢さん…!」

私を傷つけない人。
私が、助けを求められる友人。

「……冗談ですよ」

いつもの声。
…沖矢さんの。

「男の車に簡単に乗り込むものじゃありませんよ、という教訓です」
「…“赤井さん”がされたわけじゃないのは…よくわかっているんです、理解しています。ただ…あの日、“赤井秀一”の姿で…シたのが、怖いんです」

だから、…本当のあなたも怖い。

「沖矢さんなら笑って流せることも……ごめん、なさい」

頭をぽんぽん、と撫でられた。
…いつもの沖矢さんの表情と、手の温もり。

「ここなら、ご自宅までそんなに時間かかりませんよ」
「……ありがとうございます」

沖矢さんなら、怖くないことが、赤井さんなら怖い。
目の前にいる一人なのに…二人の人物に、私は怯えてる。

「御礼なら、これで」

チュッ、とリップ音をたてて一瞬だけ重なった唇に…無意識に手が出た。
その手をなんなく受け止めて。

「…っ…こんなの、沖矢さんらしくない」

私の嫌がることはしない、それが沖矢昴という人間だった。
だから私が居心地よかったんだ。
…そう、私にとって都合の良い存在だった。
それに気づいて目の前が暗くなりそうで。
それでも私は…沖矢昴という人間に惹かれかけていたことだけは、事実なんだ。
私にとって都合の良い沖矢昴という人間に?

「やっと気づかれましたね」

私が、彼に懐くように。
私が、沖矢昴という存在に居心地のよさを感じられるように。

それでも…この人に触れられることが、嫌じゃないんだ。
嫌じゃ…ないと思うことが、嫌だ。

「っ…長くなりました、帰ります」
「ええ、…また近いうちに」
「二人では二度と会いません」

それでも…それでも、と言い訳が浮かんで。
私はこの人に助けられた。
何度も。
私に近づくためだったとしても。
私から欲しい情報は…降谷零のことだとしても。

車から逃げるように降りて、自宅に走った。
自宅に入れば真っ暗で零がいないことを理解すれば、泣けてきた。


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