第21章 背徳のシナリオ ~前編~
けっきょくその日は、牛のおごりで『牛角』を後にした。
店を出るとき
「おい、ちゃんと送って行けよ」
なんてアドバイスを受けちまった……
そんなの思うんだったら、金だけ払ってさっさと席を立てばいいのに、最後まで俺達と居やがった。
でも、ま、送らなくていいよーなんって言うさんに
「いや、けっこう飲んでたし……ここから近いんだったら、ちゃんと送りますよ」
「やっさしいな~鏑木さんっ!こんなおばちゃんにまで、紳士なんだね~」
「あの……それ、ほんっとすいません」
「ん?何が?」
「俺もさんって呼んでいいっすか?」
「えーーーっ!やだよー!おばちゃんがいいわー」
「は?」
まさかここで、そんな返事が返ってくるとは思わず、惚けた声が出ちまった。
「だって、すっごく仲良しみたいじゃない?」
いや……どう考えても名前呼びの方が……
「いやっ、でもっ……」
「いいの、いいのっ!!!」
バシンッと俺の背中を叩くさん。
「いって!」
あまりの力強さに思わず声がもれた。
俺の声を聞いて豪快に笑うさん。
「今日、ずっと思ってたんっすけど……」
「えー?」
俺はさんの手を、パッと握った。
「手、でっかいっすよね?」
「そうなのー手も足も、背もでっかいでしょ?」
さんの身長は軽く170cmはあるだろう。
手も……そうか足も……
「頑丈だけが取り柄です!」
なんて豪快に笑う。
俺はさんの手を、指を絡めて握り直す。
「どうしたの?今度は甘えたくなった?」
繋いだ手を、ブンっと上に上げて聞いてきた。