第21章 背徳のシナリオ ~前編~
「そうかも」
「そっかー鏑木さんは、可愛くて泣き虫で、甘えん坊なんだね~」
そう言って繋いだ手を、ギュッと強く握ってきた。
「さん……にだけっすよ」
「……でも泣き虫なのは、アントニオさんも知ってたよ?」
「……甘えるのは」
「可愛いは?」
「いやっ!そんなの、わかんないよーーー!俺っ、おっさんだしっ!可愛くはないっ!」
「鏑木さんは、可愛い。おっさんには見えないなー」
さんは、繋いだ手をずっとブンブンと大きく振っている。
「でも俺、手も足も身長も……さんより……大きいっすよ……?」
俺は大きく振っていた手を、グッと力を込めて止めて……足も止めて……
さんの顔を見て言った。
「わかってるよーそんなのっ!あ!でも、横は私の方が大きいんじゃない?」
笑いながらそう言うさんは、パッと下を向いた。
「顔、赤い……っすよ?」
「ビール、いっぱい飲んだから……」
「違う……店を出たときは赤くなかった」
「……普通に恥ずかしいでしょ……これは……」
さんは、そう言って繋いでいた手を離そうとした。
でも今度は俺が力を込めた。
「離したくない」
「甘えすぎ」
「そうかも。でも、イヤだ」
「ヒーローがそんなこと言っちゃダメだよ……」
さんは、ずっと下を向いている。
「俺は事件があれば、24時間いつでもヒーローになります。
だけど
24時間いつもヒーローじゃないんです。
ただの男の時もある」
俺は繋いでいない方の手で、さんを抱き寄せた。