第21章 背徳のシナリオ ~前編~
「いやっ!すんません、俺……泣くつもりなんて……」
謝る俺に声を被せてくる。
「ごめんねっ!ほんっとごめんっ!!!あ!そうだっ!今日、焼肉ごちそうするよ!ねっ!私、給料日なのっ!今夜は一人の予定だったから、一緒に行ってくれると嬉しいな~~」
「いや、ほんっと泣いたのおばちゃんのせいじゃないんでっ!」
俺が笑って言うと
さんは、俺の頬を両手でムギュッと挟んで
「ダメっ!作り笑顔っ!!!ねっ!」
少し怒った顔で、俺をじっと見つめてくる。
「ははっ……」
思わず笑いがこぼれた。
「ほら、その方がいいよ!ねっ!」
パッと頬から手を放すと、思わず俺はその手を握った。
「ありがとう、でも泣いたの、ほんとおばちゃんのせいじゃないから」
「んーでも……鏑木さんの事、一つわかったよ」
「何っすか?」
「泣き虫なんだね」
ニヤリと笑う、さん。
「いやっ!ほんっと、違うからっ!!!止めてっ!!!」
俺は思わず両手で顔を隠した!
「あ、今度は可愛くなった……えっと……鏑木さんは、泣き虫で可愛い、っと」
「本気で勘弁してっっ!!!」
「んー、じゃあこれは二人だけの秘密にしてあげるよ、可哀相だから~」
「なんか、俺、イイトコないな……」
「そんなことないよっ!賠償金いっぱい払っても、鏑木さんは格好いい!!!」
「だっ!それ、全然褒めてないっ!!!」
「えーそお?」
なんて、いたずらっ子の様な顔で笑うさん
「あーもういい!焼肉、ご馳走してっ!おばちゃんっ!!!」
「おっけーおっけー!おいしーとこ、知ってるからっ!元気出してっ!」
ま、もちろん相手がいくら年上だからって、パートのおばちゃんからご馳走になろうなんって気はなかったんだけど……