第21章 背徳のシナリオ ~前編~
だけど俺は、そんな自分を認めたくなくってよ……
ずっと“おばちゃん”なんて呼んでたんだ。
それでも、いっつも元気に「はーい!」なんて、返事してくれんだよ。
バニーのヤツはきっちり“さん”、なんって呼んじゃって。
それでも、返事は一緒。元気に「はーい!」ってさ。
笑顔が絶えないんだ。
だけど俺のこと……
「あ!バイキンマンが来た!」
なんって呼んできてよー
「だっ!“しょう”が抜けてるっ!それじゃ、俺、ヒーローじゃなくて、ヒールになっちゃうでしょっ!?」
「いやーだって、“賠償金マン”だったら、そのままだから~略して“バイキンマン”」
「……いや、やっぱりどっちもダメ」
そう言って、書類をバサッと渡す俺に
「わー今回もたくさん来たね~!」
なんて笑いながら言ってくる。
正直、この手続き面倒らしくってさ、経理部の人達はみんな呆れ顔で、無言で受けとるんだ。
だけど、いつ来てもおばちゃんは違う。
バカにしたような笑顔じゃない。
心からの笑顔で……
叱られてるわけでも、特に励まされてるわけでもないんだけど……
元気出るんだよなー……
あーでも笑うと目元に、少しシワが出るんだなー……
年とると……いくら張った肌でも、そうやって……
…………
友恵の笑いジワ……見たかったな……
「やだっ!ごめんっ!!!そんな泣くほど怒らなくっても!!!」
「へ?」
友恵の事をふと思い出して、気付かないうちにポロッと涙がひと粒こぼれていた。
「ごめん!ごめんねっ!!!冗談だからねっ!いつも鏑木さんが頑張ってるの知ってるからねっ!!!」
そう言って席を立ち、背伸びをしながら俺の頭を撫でてくる。
「大丈夫!鏑木さんは、ヒーローだからっ!市民のために頑張ってるの知ってるからね!!!ほら、見てこの時間、私、寝てたよ!でも、戦ってたんだよね!エライ、エライ!」
なんてまだ、俺の頭を撫でてくる。
あーーーそっか、俺……
今
“さん”に
甘えてんだ。