第18章 Tintarella di luna 前編
そして私のペースに付き合ったワイルドタイガーは、徐々に酔って行く…………
ところが不意に真剣な顔つきになり
「ねぇ……ユーリさんっ」
「はい」
「ルナティックって、どーなんすかね?」
「…………」
ワイルドタイガーが私に近寄ってきた理由……
まさか話の本筋は、これだったのか?
私は少し息を飲んだ、だけど
「どう、とは?」
平静を装って返事を返した。
「なーんであんな、偏った考えなのかなーって。アイツにはアイツの正義があんだろうけど……
もう少し違えば、アイツもヒーローになれんじゃないのかなっ……」
気付いているわけでは、なさそうだな。
「そうですか?私には彼は危険な思想の持ち主にしか、映りませんが……」
「ま、そーっすよね」
私は返事をする変わりに、黙って頷いてグラスを傾けた。
「ま、アイツがヒーローになったら、ユーリさんの仕事増やしちまいそうっすよね!」
「……そうですね、後の処理が大変そうですね」
ワイルドタイガー……“お前”にだけは、言われたくないがな。でも……
「正義って、難しいっすよね」
ニカッと笑って、話しかけてくるワイルドタイガー。
私には“お前”の正義は、酷く単純明快のように思える……
ワイルドタイガーのように人を信じる
それは本当に素晴らしい世界だ。
だが、世の中はそんな物じゃない……
だから、私はこの手で………そう、この手で……
青い炎で…………
でも今はその想いは飲み込んでおこう……