第18章 Tintarella di luna 前編
私はいつの間にか、手に持っていた本をテーブルの上に置いて、
彼の顔をじっと見ていた。
裏も表もない、この笑顔。
その笑顔に絆されたのは、ここの店主だけではない。
復讐に燃えて、誰をも寄せ付けなかったあのバーナビー・ブルックスJr.までも、懐柔したのだ。
ただの壊し屋じゃない
この男の魅力
本当は……
ずっと気になっていたのだ。
「あっ!すんません!本読んでるの邪魔しちゃいましたよね?」
頭を掻きながら、言ってきた。
「いえ、大丈夫です。それよりも貴方は、わざわざここまで足を運ぶんですか?」
「はい!ほんと、タマ~になんっすけどね!ユーリーさんは?」
「そうですね、私は、貴方よりは通っているでしょうね」
「そうっすかー!なんか、いつもゆっくり話しする機会なんてないから、なんだか嬉しいなぁ~……なんて」
「私と……ゆっくりと話?
賠償金の事ですか?」
「だっ!ユーリーさんっ!!!それ禁句っ!!!」
バタバタと慌てるワイルドタイガーを見ていると、思わず笑いが漏れた。
「ははっ……そうですね。ここでは、その様な話しは止めておきましょう」
「…………っすね?」
「え?」
「いや、ユーリーさんも……笑うんっすね。そんな顔、見たことなかったから」