第18章 Tintarella di luna 前編
「おぉー!いらっしゃい!コテツちゃん!久しぶり!」
ゴホッ
………………
店主の大きな声が響いた。
店主は……無口ではなかったのか……
店主の弾むような大きな声。
初めて聞いた気がするな……
「おっちゃん!濃い~のっ!淹れてくれる?」
「おう!そこ座ってな!」
………………
まさか、この声……
私は先程よりも下を向き、小さな本で顔を隠すようにした……
「おろっ?管理官じゃないっすか!?」
………………
空気を読まない男だな……
ワイルドタイガー……
いやここでは、Mr.鏑木か……
「申し訳ない……ここでその呼び名は……」
「あ、あっ!そっすね!んじゃ……
ユーリーさん!
ども、お疲れ様っす!」
「…………」
「ここいいっすか?一緒に座って」
おい!もう座ってるじゃないか!!!
私は、チラリと店主の顔を見た。
『こちらのお客様は、お一人の時間を楽しまれているんですよ』
そう彼に促して欲しくて……
「おや!二人は知合いかい?そうか、そうかー」
………………
私の一人の至福の時間は終わった……