第18章 Tintarella di luna 前編
いつからだろう……
いや、違う
あの真っ直ぐな瞳に、私の心が囚われていたんだ
カラン……
小さな喫茶店がある。昔ながらの喫茶店だ。
そう、今のカフェなどではなく、小さな喫茶店。
愛想のない店主は、大きな声も高い声も出さない。
店のドアが開き、カラン……と音がすれば、ドアの方を見て、軽く会釈をするだけだ。
私も軽く会釈を交わすと、黙って席に着く。
もう10年近く通っているからか、黙っていても、いつもの紅茶とジャムが運ばれてくる。
職場からも住まいからも少し離れたこの場所は、私の心を落ち着かせた。
ここの紅茶は茶葉がしっかりと開き、渋めに出された紅茶と甘いジャムがしっくりとくる。
店の雰囲気然り紅茶の味も大変好みで、ここは私の数少ない癒しの場なのだ。
そして一日の雑事を払拭するよう、一匙ジャムを掬って、紅茶に入れサッと混ぜる。
甘い香りが鼻孔を擽る。
そして一口
口に含めば、今日の疲れが少しずつ解けて行く……
カラン……