第2章 キスだけじゃ、止められない
あ!来たっ!
さすが、キースさん……
本当に時間に正確だ……
いつもの時間にいつもの場所……
そう、もうすぐそこのベンチに腰をかけるはず。
そうしたら僕はこう言うんだ
あれ?キースさん。こんにちは
いいよね、これで。さりげない。うん。大丈夫。
僕は頭の中で、何度もシミュレートした。
それはもう、トレーニングの時以上に何度も……
さぁ!折紙サイクロン!いや、今はただのイワンだ!
イワン!勇気を出して、その一言を……
ん?
あ、あれ?
さっきまで、あのベンチの傍にキースさんがいたのに、いない!?
僕は辺りをキョロキョロと見回した。
すると珍しく少しだけ焦ったような、キースさんの声が聞こえた。
「ジョン、待つんだ!待つんだ、ジョン!!!止まるんだ!!!」
その声の方に目線を向けると
ジョンは、可愛らしい女の子の足元で、頭を撫でて欲しそうに座って顔を上に向けていた。
思わずその光景をじっと眺めていると
「すまない!急に君のもとへ走り出してしまって、驚かせてしまったね」
律儀な彼らしい謝罪の言葉を述べている。
「ふふ、大丈夫ですよ。私……よく、動物がやって来るんです……」
ニッコリと頬笑む彼女は……
前髪を眉毛の下でキッチリと揃え、肩まで真っ直ぐに伸びた黒髪がまるで……そう……
日本人形
のように愛らしい人だった。