第12章 LOVE SAUCE 前編
「虎徹……さん?」
「バニィ……何か、怖い顔してる……」
腕を引っ張ったんじゃない。
虎徹さんが、歩くのを止めたんだ。
「あーあのさ、俺、やっぱ帰ろっか?」
ハンチング帽に手をやり、その帽子で顔を隠すような仕草をする虎徹さん。
あ、もうマンションのエントランスまで来ている。
考え事をしながら歩いていたからか、気づかなかったな……
「バニィ……?」
虎徹さんが、帽子の隙間から上目使いで、僕の名前を呼んだ……
「……そんな……帰るなんて言わないで下さい……」
「いいのか……?」
「もちろんですよ。今夜はもう少し、飲みましょう」
「バニィ~」
甘えた声を出して、抱きついてくる虎徹さん。
僕の鼻孔を甘くくすぐる、虎徹さんの香り。
あ、あ、あ、あーーーーーー
ドキドキしすぎて、死にそうだっ!!!
もう僕はどうやってエントランスをくぐって、エレベータに乗り、部屋の鍵を開けたのかさえ覚えていない。
ただ、ずっと……
虎徹さんが僕の近くに、黙って……ピッタリと寄り添っていた。