第12章 LOVE SAUCE 前編
だけど、どうしても抱き返す勇気が出ない。
ポロポロと出た涙も、さっきのハンカチを見た瞬間に引っ込んだ。
ここから……どうしていいのかさえ、解らない……
せっかく……いい雰囲気なのに、な……
今日もこのまま、ここでお別れまた明日。なのかな……
そんなことを考えていると、僕の肩口に顔を埋めていた虎徹さんが、僕を抱き締めたまま甘く囁いた。
「バニー……」
「はい」
「もうちょっと飲みたいんだけど、いいとこ知んない?」
…………
そんなの僕が教えて欲しいくらいですよ!虎徹さんっ!!!
思わず心の中で叫んだとき
「えっとさー……お前と二人でゆっくり飲めて、お前の好きなワインがあって……あと、さ、大きな窓が……
あるとこ……知んない?」
最後の大きな窓!!!
やっと解った!!!
「あ、あります!行きましょう!ゆっくりできますよ!あ、でもそこには、僕の好きなモノしか置いてないな……」
僕が早口でそう言うと
「充分だ。それ、きっと俺も好きになるから」
…………
これ、あの大きい月に惑わされてるんじゃないかな……
ふと、不安に感じた。