第1章 キスだけじゃ、我慢できない
夕方家に着くと、また楓とバニーが二人でキッチンにこもっている。
二人の楽しそうな声が聞こえてくるので、様子を見に行ったら
「こっちは私達だけでいいから、お風呂でも洗ってきてよ!」
つれなく楓にそう言われ、
「いや、お父さんも……」
「ここは大丈夫なんで、バスルームお願いします。あ、これも置いて下さい」
バニーがシャンプーなどのボトルを渡してくる。
「ちゃんとすぐ使えるように、しておいて下さいね」
「へーへー」
あいつら二人が仲がいいのはいいけど、なんだかつまらない。
思わず壁に飾ってある友恵が写った家族写真を見る。
……
なんだろう……友恵が俺に笑いかけている気がした。
おしッ!頑張ってキレイに風呂洗うか!
俺は気合いを入れて、風呂場に向かった。
「行きましたか?」
「うん」
「じゃあ、今のうちに用意してしまいましょう」
「うん!」
俺はもちろん二人の会話は聞こえていない。それでも、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
それだけで、なんだか満ち足りた気持ちになっていたんだ。
そして次に俺がリビングに戻ったときには、すっかり夕飯の用意が整っていて
そこには、昔、友恵と一緒に食べた
鍋料理があった。
「お父さん、しゃぶしゃぶ好きだったでしょ?」
俺の後ろから、楓が聞いてきた。
振り返って返事をしようとしたら
「お前、それ……」